ホットドリンクの冷めない方法



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今夜は冷えるなー、と静かな窓の景色を見て思った。
一人でいると、暖房の効いた部屋でも寒く感じるものだ。
そんなことを感じながら温かい飲み物を口にする。
液体が喉を通り一息吐くと、私は一緒にため息まで吐いていた。
妙にこの部屋が寂しく感じたのだ。
その理由は一つしかないのだけど。
スカートのポケットから携帯を取り出した。徐にキーを押し、着信履歴を開く。
最近連絡を取り合った履歴に一人の男性の名前が表示された。
その男性は私の恋人。しかし今は訳有りで私の傍から離れている。
だからしばらくの間、一人でお留守番なんてしているのだ。
最初は彼に心配されたが“平気”とか言って大丈夫な振りをしていた。
しかし、それも一週間になってくると不思議と“平気じゃなくなって”だんだん一人が寂しくなってくるのだ。
ほら、恋人同士にはあっていい時間とかがないから。
だから私は彼に電話なんてしてみたんだと思う。



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「もしもし」

彼がいなくなって電話をするのは初めてだった。
繋がるかどうか心配だった。
今私は日本にいるけど、彼がいるのはロンドンだったからだ。
ロンドンについては日本から時差九時間ということしか知らない。
電話が通じるなんて試したことないから不安だったが、しばらくした後呼び出しのコールが聞こえた。
多分あちらの方まで通じたんだろう。
何コール目かに聞き覚えのある声で返事が来た。

「咲夜?どうした…?」

電話に出た彼はとても驚いた様子だった。
しかし私は彼とは対称的に声が聞けて安心していた。

「あ、ううん。なんだか電話したくなったの」

姿が見えないから電話に出ている彼を想像してみた。
すると胸が熱くなった。
キュッと何か締めつけられるような感覚さえある。
少し気持ちが落ち着かなくなってきた私は気付かれないように小さく息を吐き、彼との会話を再開した。

「どう?そっちの暮らしは」
「外国って初めてで緊張してたけどさ。なんとかなってるよ」
「元気そうね。よかった」

二人で話をするのがこんなに嬉しいものだなんて、彼と一緒にいた時は気付かなかった。
こんなに満たされている自分がいるのが不思議だ。
しかし彼は突然私を驚かせた。

「―ごめんな咲夜」
「え…?」

今度は私が驚く立場になった。
謝られて、私は何か悪いことを言ったんじゃないか不安になった。
彼は次にその訳を話した。

「そっちで一人にさせてしまっているから、辛いだろ…」
「大丈夫って…言ったのにね」

なんだかそんな言葉を言わせてしまったことが辛くなった。
彼は私が電話をした理由に気付いていたんだ。
今まで辛かったし寂しかった。
結局その後会話が続かなくなってしまった。
どうしよう、私のせいだ。
彼の声を聞きたいのに、これじゃ私は何のために電話を掛けたのだろう。

「咲夜…?」

どうしていいか分からなくなって言葉が出なくなってしまった。
彼に名前を呼ばれても、どう返事をしていいものか悩んでしまう。
しばらく無言の電話が続いた後、彼はふうっと息を吐いて私に話しかけた。

「―俺、あともう少しで帰れそうなんだ」
「…え、本当なの?」
「うん。恐らく一週間以内には」

突然彼から帰国の話を出された。
予定ではまだ先の話だったが、仕事も順調に進んだおかげで予定より早めに帰れることになったんだと彼は話してくれた。

「なんだか私、さっきから驚いてばっかりだわ」
「俺も電話が来る前にこの話を聞いたばっかりでびっくりしたさ。でもこれで少しは寂しくなくなったかな?」
「ええ、嬉しいわ」
「そうか。俺も早く咲夜の顔が見たい」

ようやくここで安堵の息を漏らした。
今日はよく息を吐く日だ。

「貴方の帰りを待ってるから」
「じゃあ、俺が帰ったら何しようか?」
「そうね…」

彼からの提案に私はいろいろ悩んでみた。
二人で外出でもしたいかな。
いろんなお店へ行って買い物をしたり美味しいものを食べたり、景色の綺麗なところへ行ったり。
また一緒に過ごせることが嬉しくて、想像が膨らんでいく。
彼が傍にいるのなら、きっとなんでも嬉しく感じる。
どこかへ出かけるのもいいと思う。
だけどやっぱり最初は―。

「ねえ、帰ってきたら……して?」
「し、して!?って咲夜…出発前の前日にしたけど…まさか想像以上に寂しがってる?いやそんな咲夜が電話で頼むとか…」

一人で何かを想像しているがそれは声に出てしまって私に丸聞こえだった。
なんだか変な方向を想像してるのが電話越しで伝わってきた。
その囁いている声を聞いているのは面白かったが、収拾がつかなくなると困るのでここで正してあげることにした。

「何を想像してるのよ」
「…え?」

そして私は静かに囁いた。

「キスして、ってことよ。分かった?」

そして私は大きく笑い出した。彼はというとしばらく沈黙していた。
私の言葉で今まで自分が想像してたこととは全然違っていたことに気付くと、彼はやられたというような感じに笑い出した。

「あれはひどいだろっ!」
「私はただ“して”って言っただけよ?アッチとは言ってないでしょ?」
「だからって抽象的な表現は卑怯だ!」
「予想通りの反応だったわ」
「咲夜、お前って奴は…」
「うーん、まあアッチは帰ってからいつかはしてもらうからいいけどね」
「おい」
「でも、帰ってからしてくれるんでしょ。お帰りのキスとか」
「さて。意地悪な咲夜さんにはどうしようかなー」
「じゃあ帰ってこなくてもいいわ」
「どこの誰だよ。寂しくて電話掛けてきたの」
「さあ。そんな人だったら数分前くらいにはいたけど」
「そんなこと言ってると後で痛い目見るぜ」

他から見たらくだらないし他愛ない会話だけど、こうしたことで盛り上がるのは今の私にとって嬉しかった。
それは、とても寂しかったから。

「貴方が帰るのを楽しみにしているわ」
「あと少し待たせてしまうけど、早く帰るから。それじゃ」
「うん」
「愛してる」

この電話を切ってしまうのが嫌で、なかなか私はボタンを押せずにいた。
愛してる。その言葉に私も返そうとしたが、気付いた時に聞こえてきたのは通話が途切れた機械音だけだった。



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後は帰りを待つだけだ。
しばらくまだ一人は続きそうね。

飲みかけていた飲み物を口にする。
もちろん飲み物は冷めていたけど不思議と身体は寒くなくなった。



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後書きという名の補足。



咲夜さんのリクエストでした。
リクエストしてくださった方ありがとうございました!
やはり不動の一位。素晴らしいです咲夜さん…!

仕事でロンドンに行っちゃった彼を思う彼女の話を今回書いてみました。
ていうかですね。
咲夜さんにこう言ってもらいたいとかこうしてもらいたいって願望が詰まってできました。
もう完全なる私の妄想で誠に申し訳ないです。
最後の方は軽く下ネタですしねー。
まいっか。本文中で手を出してないだけマシだ←

私がちょっと微禁っぽい文を出す時は大体スランプですね(!)
だけどなかなか深くまでは書けないのでこうして微妙な感じに話が終わっていきますw
そして駄文に変貌するというテンプレ。

長く待たせてしまったリクエストなのに駄文で本当に申し訳ないです…。
ここまで読んでくださりありがとうございました! inserted by FC2 system