きみとカレイドスコープ



●○●



最近お外へ出て行くあの人。
いつも私を一緒に連れて行ってはくれない。
お外に出るのは危険だからって、いつもそう言われてきた。
特にお外に興味がある訳でもなかったから無理矢理ついていこうとはしなかった。

いつも館の生活。変わらない日々。
毎日毎日館の生活を続けているのは構わなかった。
大好きなみんながいるんだもの。
美鈴も咲夜も悪魔もパチュリーもいる。
みんないるけど、私が一番好きなあの人が最近はいない。
館を抜ける姿を私は何度か見た。


何処へ行くんだろう。


気になってある時私は聞いてみた。
だけど何処へ行くのか答えてはくれなかった。
咲夜に聞いてみても答えてくれない。
そのことについてはあの人に口封じをされてるらしかった。
私に内緒で何処へ行くんだろう。


最近は一緒に遊んでくれないのね。
お姉様。



●○●



「なんであんたがいるのよ」
「それはこっちの台詞だぜ」

少し肌寒くなってきた秋の空の下。幻想郷。
ここは博麗神社の中。
今日は魔女と悪魔がお邪魔していた。
二人の睨み合いをこの神社の巫女は後方で観戦していた。

「私としてはどうして二人ともいるのよ、なんだけどね」

霊夢は魔理沙とレミリアを一瞥して自分で淹れたお茶を啜った。
本来なら誰も来ないと踏んで暇潰しをしようと思っていたところだったのに。
魔理沙がやって来て、ああ厄介だなと思ったら次いでレミリアがやって来た。
厄介者が増えて神社は少しばかり賑やかになってしまった。

「それよりレミリア。最近あんたをウザいほど見てる気がするのだけど」
「あら霊夢。私が会いに来てあげてることにそんなに照れなくてもいいじゃない」
「何も照れてない」
「もう、可愛いわねー。やっぱり血を頂いちゃおうかしら?」
「げっ・・・近寄るな悪魔・・・!」
「ホント厄介な悪魔に好かれたもんだな」

今度は魔理沙が観戦する中ぽつりと一言呟いた。

「私も最近悪魔に好かれてな」
「・・・ああ・・・あんたんトコの妹だっけ?」

霊夢は後ろから抱きついて離れないレミリアに向ける。

「フランは魔理沙がお気に入りなのよ」
「姉妹揃って似た者同士ね。厄介だわ・・・」
「フランが魔理沙のことを気に入っているなら私が霊夢を気に入っても可笑しくないでしょ?」
「そろそろ悪魔祓いでも習得しようかしら。巫女向きではないけど」

さてこの状況をどう変えようか迷っていると、レミリアが突然霊夢から離れた。
ぱっと離れたので一体どうしたのか霊夢は気になり振り返る。

「そうそう。私はこんなことをしに今日はここへ来たんじゃないのよ」

いきなり来て変なことを言い、くっついてきたと思えば突然話を切り替えだしたレミリア。
変な奴というのは今更なのだが、気になったので続きを聞くことにする。

「万華鏡って物はあるかしら?」
「え?」

西洋の妖怪である彼女の口から東洋の玩具の名が出るとは思わなかった。
万華鏡といえば幼い頃はよく覗いて遊んだと霊夢は懐かしく思った。
そんな前の時に持っていた玩具が今もあるかどうかと聞かれれば多分ない。
霊夢はそのことをレミリアに伝えると、レミリアはなんだか落ち込んだ顔をしてしまった。

「どうしたのよ・・・」
「贈り物にしたかったのよ。フランのね」
「あの妹君に贈り物?またどういう風の吹き回しだ?」

なんだかこれはほっとけない感じがした霊夢と魔理沙はレミリアの話を引き続き聞いた。

「私っていつも外に出るじゃない」
「まあそうね」
「でもあの子は外へ出ないのよ」
「それはあんたが出さないようにしてるからじゃないのか?」
「そうなんだけどね」
「じゃあ何よ。贈り物って」
「・・・あの子に謝るため、かしらね」
「?」
「私はあの子に何もしてあげられてないの。こうして好きなことをしているけど、陰であの子は寂しがってるはずだから」
「じゃああんたが外へ出ないで遊んであげれば済む話じゃないの」
「それは嫌よ。外へ出なくちゃ霊夢に会えないじゃない」
「全く・・・言ってることが矛盾だらけだぜ」

結局レミリアがどうしたいのかよく分からなかった二人は、とりあえずどうしようか考えた。
この我儘なお嬢様が外に出なくなるとも考えにくいし、かと言ってこのまま放置すると妹が可哀想なだけだった。
いい解決策はないか思案していたところに、魔理沙がふと何かを思いついたような仕草をした。

「ちょっと待ってな。ウチから取ってくるから」

そこで魔理沙は一旦神社を後にしたのだった。



●○●



二人きりになったところでしばらくしてレミリアが動いた。

「さあ霊夢、大人しくしなさい」
「大人しくしなかったら?」
「多分貧血になるわよ」

その台詞の後に襲い掛かってきたレミリアを霊夢はさっと避けて見事後ろを取った。

「うわぁちょっと!何するのよ!」
「何するのよはこっちの台詞だわ。この吸血鬼が」

後ろからしっかり腕を抑え込んだ体勢で、じたばたするレミリアを捕らえる。
身動きが自由に取れなくなったレミリアは次第に静まっていった。
なんだかレミリアからカリスマというものが抜け落ちてしまったようで、その後ろで少しだけそんなレミリアを可愛らしいと思ってしまった霊夢だった。

「妹を大切にしないなら、もう会ってあげないわよ?」
「霊夢・・・?」
「ちゃんと一緒にいてあげなさい。それから・・・」

霊夢は落ち着いたレミリアを離して最後に一つ、言う。

「抱きしめてあげなさい。好きなんでしょ?」

そうしてレミリアを抱きしめた。
突然のことにレミリアは何もできなかった。声すら出せなくなるほど驚いた。
距離が縮まった霊夢の腕の中で、頬を紅く染める悪魔がいた。



●○●



「ちゃんと待ってたかー?」

あの後しばらくして魔理沙が戻ってきた。
なんだかレミリアがやけに大人しくなっているのは気のせいだと思うことにして魔理沙は取ってきたものを渡した。
それは万華鏡だった。

「そういえばウチに残ってたことを思い出してさ」
「わざわざ取りに行ったの?」

まさかこうして万華鏡が手に入るとはレミリアも思っていなかったのだろう。
レミリアが魔理沙の顔を見た。
どうして魔理沙がここまでしてくれたのだろうかという表情をしている。

「妹君によろしくな。暇な時にはいつでも私が駆けつけるからとでも言っておいてくれよ。そうすればきっと寂しくないと思うぜ」

なんだかレミリアは嬉しくなった。
こうして言葉をかけてもらえたことや、二人が力を貸してくれたこと。
今日ここへ来て良かった、と心の底から思った。

「邪魔したわね。いろいろ感謝するわ」

嬉しさを胸に抱き踵を返そうとしたところへ、霊夢が言葉をかけた。

「今度妹を連れて遊びにきたらどう?言ってくれればその日の夜くらいは起きててあげるわ」

いい提案だな、その言葉を聞いて魔理沙は賛同したがレミリアはそうではなかった。

「考えておくけど・・・あの子の持つ力のことを考えると不安なのよね」
「レミリア。そんなことを言っていたら、いつまで経ってもあいつは外へ出れないんだぜ?」

レミリアの言葉に魔理沙は間髪入れず抗議した。
しかし魔理沙の言葉にレミリアは渋い顔をしたままだった。

「・・・本当に邪魔したわ。また会いましょう、お二人さん」

最後は霊夢と魔理沙の顔を見ずに、レミリアは翼を広げて空の彼方へ去ってしまった。
なんだかそのことが、二人の中に不安を残させたのだ。
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